もちろん憎かった。
けど、いつか彼と結婚できるんじゃないか・・・
そんな期待もしていた。
というより、
絶対してやる・・・・そんな意地の方が強かったかも知れない。
彼との別れを繰り返す中で、私に言い寄ってくれる男の人もいた。
相手には
『私には思い続けてる人がいる。
だから、あなたのことを愛することができないかもしれない。
それでもいいの?』
と言って、付き合ってみたりもした。
でもやっぱり彼への思いを断ち切れず、
他の男の人に対して恋愛感情が持てなかった。
あの中絶以来、私は完璧な避妊をし続けた。
誰も傷つけないため。
自分の心を守るため。
私と彼は、SEXの相性がとても良かった。
それだけで繋がっていたのかも知れない。
でも、
私の中で、
彼以外の男とSEXをしたこと、
子供を堕ろしたこと、
それが私をずっと
堕とし続けた。
私と彼の間に溝も作っていた。
それからしばらくして、冬になった。
私は彼と別れた。
彼は時折、他の女の子にはまったりしていた。
でも、別れても会ったりしていた。
私は仕事を探すため、新宿に足を運んだ。
スカウトに声を掛けられる。
これが目的だ。
水商売をやっていると、
求人誌よりもスカウトで仕事についた方が、給料がいい。
新宿に着くと、一人の男性に声を掛けられた。
『雑誌とかでモデルの仕事しませんか?』あ、AVだ。
ピンと来た。
こんな背の低い私に、モデルなんてあるわけない話だ。
『それってAVですよね?』
そう聞くと
『分かる?早い話、そういう仕事の方が多いんだけど・・・』
そう返ってきた。
社会勉強の一環として、話を聞きに事務所に行ってみた。
『知り合いにバレたりしないの?』
『バレるバレないは、本当にその人の運だから。企画1本出ただけで
バレる子もいるし、単体でパブ全開にしてても、全くバレてない子もいるし。』
『?』
企画?
単体?
パブ?
サパーリワカラン。
●単体(レンタル女優)=女優そのものがメイン。作品も、一人の女優で編成される。
そのため、パッケージに目線を入れることは、基本的にできない。
作品に対するギャラは高いが、メーカーとの本数契約等をするため、
その間は他のメーカーの仕事はできない(これを拘束という)。
作品は、レンタルショップに並ぶ場合が主。気軽に見れるAV。
●企画(セル女優・インディーズ女優)=女優メインではなく、作品の中身がメイン。複数の女優で編成される。
1作品に対するギャラは単体に比べると低いが、
単体のように拘束が無いため、次から次へと仕事ができる。
そのため、毎日ギャラを貰うことも可能になる。
作品はセルショップに並ぶ場合が主。買わなきゃ見れないAV。
●パブ=パブリシティーのこと。
雑誌・新聞・テレビなどのメディアに、宣伝すること。
そんな説明を受けた。
私は、男に利用されるだけの女だった。
この人もまた、私を女として利用しようとしている。
でも、この世界を覗いたら、何かが変わるような気もした。
強くなれる気がした。
自分が、利用される女として、自信がつくような気がした。
レイプ経験や、中絶経験のある私には、
女として、そのくらいの価値しかない。
そう思った。
そう思ってた。
だからあの時、スカウトの話に着いていったんだろう。
こうして私は、AVの道へ足を踏み入れた。
私がAV女優になったのは、あの一日だけがきっかけではない。
私の過去が、AV女優になる要素を作った。