『これ、あなたが描いたんじゃないでしょう?』
ショックだった。
一生懸命描いたのに、自分の努力を否定された。
きっと先生はみんなこうなんだ・・・と思った。
家に帰ると、父にそのことを話した。
父は先生に電話していた。
小学2年の、雪の降る夜。
私は、居間で勉強をしていた。
すると父が帰ってきた。
『お前、勉強してるのか?』
『うん。明日の授業で九九を覚えてお披露目するんだけど、明日やるこの段がどうしても覚えられないの。』
こう言った途端、父の形相はがらりと変わった。
『こんなもんもできないのか!?今から言ってみろ!』
『でもまだ覚えてないから・・・』
『外に放り投げられて一晩過ごすか、叩かれるか、どっちがいい!?』
私は
『どっちも嫌!!』
と言った。
つっかえたら、外で一晩か、ビンタだ。
覚えてないのに、奇跡でも起きない限り言えるわけがない。
当然のように、私は九九が言えなかった。
父の手は、私の頬に飛んできた。
その手は、私の両頬を3往復した。
私の体はキッチンへ飛んだ。
キッチンは血だらけになった。
鼻血が止まらなかった。
涙も止まらなかった。
次の日の算数の授業・・・私は顔を上げることができなかった。
私は、九九を言えないまま大人になった。
数学は嫌いだ。
いや、算数から嫌いだ。
あの日のこと、父は覚えているのだろうか。
今年の夏、父と母と食事をしているとき、その話になった。
私はあの日のことが今でも忘れられず、はっきりと覚えている。
しかし、父は
『俺はそんなことは絶対にしていない。』
と言った。
母は、
『私はあの時、なんで教えたりすることをせずに叩くだけで終わりにしたんだろう、と思ってた。』
と言った。
私の記憶は間違っていない。
今の時代なら『虐待』と言われる行為だろう。
その当時は『しつけ』でしかなかった。