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それから数日後、
自宅の電話が鳴った。
面倒くさそうに私が出ると、
電話の相手は
『裏さんのお宅でしょうか?』
と言った。
『裏は私ですけど。』
セールス電話かと思った。
『あ、俺・・・誰だか分かるかな?』
今の時代なら、
『オレオレ詐欺ってこんな感じなのか?』
と思っただろういや違うな。
とにかく、知っている男友達の声ではない。
イタズラ電話だと思った。
『分かりません』
ぶっきらぼうに答えた。
私の電話応対がぶっきらぼうなのは、
昔からだ。
電話に出ると、
セールスのオバサン『あ、ボク?』
裏『いえ、違いますけど。』
セールスのオバサン『あ、お嬢ちゃんかなっ?』
裏『は?何ですか?』
セールスのオバサン『ママいるかなあ~?』
高確率で必ず間違われる子供っぽい声。
しかも性別まで。
私がこの世に誕生して四半世紀が過ぎた今でも言われる。
もうおばちゃんであるにも拘らず、
『ボク』や『お嬢ちゃん』や『赤ちゃん言葉』を使われると、
非常にバカにされている気分だ。
掛けてきた相手は、私の気分を害していることすら気づかない。
私の電話嫌いも、おそらくこれが原因のひとつだ。
そんなことを思っていると、
『中園ですが・・・。』
電話の相手は、そう答えた。
思わず、顔が赤くなった。
裕貴さんから電話が掛かってくるなんて、
思いもしなかった。
ぶっきらぼうな応対に、
裕貴さんはどう思っただろう。
裕貴さんは、
『年賀状にも書いたけど、
今度どこかに遊びに行こうか。』
と、明るく笑いながら言った。
裕貴さんとのデート?
考えてもみなかった。
『でも忙しいんじゃないんですか?
なんか、逆に気を使わせちゃったみたいで・・・』
そう答えると、
彼は
『そんなの気にしない!
せっかくデートのお誘いしたのに、
届いた年賀状にその返事ないんだもんなあ。
ちゃんとお詫びしてもらうぞw』
彼の明るい声に、私も軽い気持ちでOKした。
私も裕貴さんも、
『少し年の離れたお友達。』
そんな感覚なのだと思っていた。
・・・・続く
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思ってもいなかった再会は、
高校1年の冬に訪れた。
なんとも思わない男と付き合い、
なんとも思わない別れを繰り返し、
高校進学して初めての冬休みを迎えた私は
一人無気力だった。
毎日をただゴロゴロして過ごした。
家にいれば、父親が
私を怒鳴りつける。
ささいなことで口論になる。
ビール瓶や皿やスプレーが飛び交うのも、
当たり前だった。
気の強い親にして、この子あり。
周りはみんな、そんな目で見ていただろう。
私をきつく縛る父親。
たった一人の娘だ。
今考えれば
大切にしたいと思うからこその
束縛だった。
私の誕生を
『お姫様が生まれた』
と喜び、
私の幸せを願って
育ててくれたはずだ。
でも。
ここから逃げたい。
そんなことばかりを考えてた。
元旦。
父親は、大量に刷り上げた手作りの年賀状を
コタツの上に並べ、仕上げていた。
父は、元旦を迎えてから、
年賀状一枚一枚に
丁寧に文字を入れていく。
『年賀状は、年末に書いたり出したりするもんじゃない。』
父はいつもそう言っていた。
そういった『儀式』を、とても大切にする人だ。
『振り分けが大変だから、早めに出してね』
という郵便局の都合なんて、これっぽっちも考えていない。
年末からゴム版画の案を考え、
下書きをし、配置を決め、
少しでも失敗したり、
気に入らないと、
最初からやり直し・・・
これが、3が日まで続くこともざらにあった。
父の版画は見事なものだった。
手刷りの版画だから、一枚一枚色合いも微妙に違う。
ただ見流されるだろう年賀状に、
一枚一枚思いを込めていた。
毎年見るこの光景だけが、
唯一父親を尊敬しなおすきっかけになる。
ろくに会話もないまま、
父親の手元を眺めていた。
『はい、これ。あんた宛に届いた年賀状。』
母親が、届いた年賀状を振り分け
私に差し出した。
私は、届いた年賀状に
一枚一枚目を通した。
その中に、一枚だけ見慣れない字の年賀状。
母親が、振り分け間違えたのだろう。
瞬時にそう思い、宛名を見た。
しかし、間違いなく私宛だ。
誰だろう?
差出人の名前を見て驚いた。
『中園裕貴』
裕貴さんからだった。
『明けましておめでとう。
去年はどんな年でしたか?
高校生活には慣れましたか?
機会があれば、どこか遊びに行きたいですね!』
年末に書いたであろう1枚の年賀状。
私のことを思い出してくれたことが
なんだかとても嬉しかった。
しかし、お出かけのお誘いは、
社交辞令なのだと思った。
おそらく、書くことが他に見つからなかったのだろう。
私は、
『明けましておめでとうございます!
私も、高校入学してから忙しい生活になりました。
お互い頑張りましょうね!』
という、当たり障りのない返事を年賀状にし、
他宛の年賀状と共に、ポストへ投函した。
・・・・続く
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想いは、次第に薄れていく。
そして、
消えていった。
進学してからは毎日が忙しく、
友達と会うことだけが楽しかった。
しかし、下宿先で体調を崩し、
数ヶ月眠れない日々を送り、
結局私は自宅から学校へ通うことになった。
茶色く染めた髪や、短いスカート、
耳に開けた、たった3つのピアスの穴を見て、
『お前は自堕落だ。娼婦みたいだ。』
と毎日のように怒る父親。
自宅に帰ること自体が面倒になった。
高校には、進学したかったわけじゃなかった。
というか、本当は、行きたい高校があった。
芸術が学べる高校だった。
私の偏差値ではとてもじゃないけど
行けない学校だった。
理数系が極端に偏差値の低い私は、
その学校を受験することができなかった。
先生に、
『他は合格レベルなんだけど、数学と理科が常に評価1・2じゃねえ・・・
あそこは名門校だから・・・。もう挽回できないしねえ。』
と言われたことで、諦めた。
自分の将来には、
なんの光もなかった。
進みたいと思った高校。
芸術に、数学や理科は必要ない。
そう思っていた私の理論は、
たった一言で壊された。
自分の好きなことできないなら、
みんなより早く働いた方がいいや。
そう思った。
母親は美容師だったから、
『働きたいなら理美容専門学校に行きなさい。』
父親は、
『高校でないと苦労する。』
『高校ぐらいは出ないと恥ずかしい。』
『高校浪人するつもりか!?』
そんなことばかりを言った。
父親が嫌いだった私は、
『○○高校に行きたかった。
でも、頭悪いから行けないんだって!
私が算数できないのは、誰のせい!?
浪人が嫌なら、下宿できるような遠くの学校なら受けるよ。
でも、推薦じゃないと高校は行かない。
行きたくもない高校を一般受験なんて、絶対に嫌だから。』
そう言って、半ば無理矢理
行きたくもない高校に進学した。
遠くの学校へ行くことは、
私の意志だった。
唯一の、父親への反発心だった。
その結果、好きだった雅人の傍にいられなくなった。
現実を受け入れる。
素直になる。
自分の意志を貫く。
このバランスを保てず、
私は自ら、駄目な方へと突っ走った。
たった数ヶ月で下宿を辞め
自宅から学校へ通う日々。
情けなかった。
自宅に寄り付かなくなったのは、
そんな自分の思いを
父親に悟られたくなかったから。
父親は、下宿先での私の体調を
誰よりも心配してくれていた。
でも、それさえも鬱陶しかった。
私は、友達から紹介を受けたり、
ナンパされた男の子と付き合ったりするようになった。
『自分がその人を好きだから』
『お互い好きだから』
そういうのは、
どうでも良くなっていた。
・・・・続く
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それから少しの時が経ち、
私たちは中学を卒業した。
卒業式から数日経ったある日。
私は一本の電話を貰った。
当時は携帯電話やPHSなんてものは
持てなかった時代だ。
自宅へのそれは、雅人からだった。
彼は言った。
『俺、裏おんなのこと、好きだったよ。
今更だけど。あの時答えられなくて・・・ごめん。』
本当に『今更』だった。
そして、これは『現在進行形の思い』なのかも微妙だ。
私は、中学を卒業したら、
下宿生活を始める。
遠くの土地へ行くのだ。
雅人は地元の高校へ進学。
離れ離れになってしまう。
友達としての思い出しか作れなかった。
照れ隠しで
『今更遅いってw・・・・手紙、書くね』
と言った。
彼も、『俺も、書くから。』
と言った。
好きだった。
本当に好きだった。
でも、それ以上は言ってはいけないような気がした。
受話器の向こう側からは、
シャ乱Qの『シングルベッド』が
かすかに聴こえていました。
友達みんなでカラオケに行った時、
雅人はその曲を歌った。
雅人のあまりの音痴ぶりに、
みんなで大笑いした。
あれは、私にとって
とても大切な思い出だった。
それから
一度だけ。
一度だけ
雅人から手紙が来た。
でも、それだけだった。
それぞれの新しい環境に慣れることに必死だったのだろうか、
照れだったのだろうか、
私たちは、
会うことも、話すこともなくなった。
・・・・続く
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冬休みが終わると共に、
私は亜紀子ちゃんに報告した。
裕貴さんに年賀状出したら、返事が来たよ。と。
亜紀子ちゃんは、申し訳なさそうに私に尋ねた。
『裏おんなちゃんは、雅人のこと、どう思ってるの?』
私は答えた。
『雅人のことは大好きだよ。裕貴さんとは関係ない。』
すると、亜紀子ちゃんは、
私に何か言いかけた。
でも、続けることはなかった。
『亜紀子ちゃん。私、裕貴さんのことは素敵な人だなあと
思うけど、好きとかそういう感情ではないんだ。
しかも中学生と大人だもんね。
裕貴さんが私に興味持つわけもないしw
裕貴さんのこと、何にも知らないしさ。
でも、雅人は別。
亜紀子ちゃんと雅人は付き合ってるみたいだけど、
私、亜紀子ちゃんのこと別に嫌いじゃないし、
雅人のことも好き。
亜紀子ちゃんは、私にとって同じ場所に立てないライバルってとこでw
これは仕方ないことだからさ。』
私は、亜希子ちゃんにそう言った。
それから少ししたある日。
亜紀子ちゃんは私を遊びに誘った。
なぜだろう。
普通は嫉妬するんだろうけど、
亜紀子ちゃんに対しての嫉妬心は、
全くなかった。
いや、最初は確かにあった。
間違いなく。
でも、雅人の良いところを先に見出して
付き合いだしたのは亜紀子ちゃんなのだ。
嫉妬すれば、自分が情けなくなることも分かってた。
何事も、『順番こ』。
私は2番手なのだ。
割り込みなんてルール違反。
そう思っていた。
ところがその日、
亜紀子ちゃんは私にこう言った。
『雅人のことが好きだし、
雅人も私と付き合ってるって言う。
でも、付き合ってるってのがよく分からなくて。
多分、裏おんなちゃんは、私と雅人が付き合ってると
思ってるんだろうけど、私はそんな感じじゃないんだよね。
付き合うって・・・なんなんだろう。』
彼女が弱音を吐いたのだろうか。
ライバルである私に。
私が聞きたかった。
『亜紀子ちゃんは、突然何を言い出すのだね?』
と。
『実はうまくいってないの』アピール?
私は私の思うように突っ走っていいのか?
ああ、あの時亜紀子ちゃんが私に言いかけたことは、
きっとこれだったんだ。
しかし、私の本心とは裏腹に、
亜紀子ちゃんを励ます私。
こうして、私は
ライバルである亜紀子ちゃんと
中学卒業までの間、
なぜか仲良しになってしまうのであった。
・・・・続く
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