大人になったら、もう親友と呼べる友達はできないと思っていた。
私は彼女を他人とは思えなかった。
彼女もそうだと言っていた。
お互いに、何か惹かれるものがあったのだ。
仕事上の悩みも、プライベートでの悩みも、
お互いに相談しあえる仲になった。
休みが一緒だと、
遊んだりもした。
ホストの彼とも会わせたりした。
彼女は彼女で、自分の好きな場所を
共有しようとしてくれた。
私にはこのコが必要だ、と思った。
彼女と一緒にいることで、
自分の向上心も刺激される。
いいライバルでもあった。
彼女は演劇が好きになった。
めきめきと演技力をつけていく彼女。
一方私は演技力なんてなかった。
だから彼女の才能がすごいと思ったし、
舞台で堂々と演技をする彼女に
憧れも抱いていた。
そのことで、自分を蔑んだりもした。
大切な親友だった。
でも、お互いをライバルと思っていたからか、
私は彼女に対する嫉妬心を、
彼女は私に対する嫉妬心を、
それぞれ同じ人にぶつけていた。
それを知るのはずっと先の話になるのだが・・・。
彼女には、同棲している彼氏がいた。
私はこの彼とも交流があった。
彼女が彼と付き合う前、
彼女は一人の男性に告白された。
学生時代に憧れていた男性。
でも学生時代は離れた場所から見ているだけ。
卒業してから親しくなったと言う。
彼女が好きだったのは、
離れて暮らしているその彼だった。
でも、離れて暮らしている彼にとって、
付き合う彼女がAV女優だと言うのは、
不安材料になる。
もう一人の彼は、仕事に理解のある男性。
私はその時彼女から、
どちらと付き合えばいいのかという相談を受けた。
彼女は結局、
離れて暮らしていて、会いたい時に会えない彼よりも、
いつもそばにいられる彼を選んだ。
女にとっても、男にとっても、
こういう状況に置かれたら誰でも悩むのではないだろうか。
彼女は仕事を続ける一方で、
演劇の勉強をしていた。
いつからだろう。
彼女がAVの仕事に嫌悪感を示し始めた。
『もう辞めたい。
演劇だけをやりたい。』
そう言ってきた。
話を聞くと、
以前振ってしまったあの憧れていた男性と、
数日前に会ったと言う。
そこで確信した。
私は彼よりも、離れて暮らしてるこの人が好きなんだって。
って・・・。
私は彼女に思わず言った。
『今までずっと一緒に仕事をしてきて、
私は○○に嫉妬心持ちながら、
向上心に変えて頑張って仕事してきたよ?
○○がいなくなったら、
私の気持ち刺激してくれる一番大切な人がいなくなるってコトなんだよ。
本音を言ってよ。
演劇がやりたいんじゃなくて、
彼に相応しい女に戻りたいってコトなんじゃないの?』
『そうかも知れない。
今まで近くにいる彼で気持ちごまかしてきたけど、
もうココ数日、彼氏とはキスさえもしたくないんだ。
実際彼氏のコト避けてるし。
だからもう、男優さんと絡むのも嫌なんだよね。
なんか仕事もうまくいかないし・・・。』
『そっか・・・。
今の私には、○○の気持ちは理解できない。
私と○○とでは、愛情の受け取り方や表現の仕方が違うと思うから・・・。
でも、好きな人がはっきり分かって、
仕事も辞めたいって思うほどなら・・・
きちんと彼氏と別れた方がいいんじゃないかな?
ま、人のコト言えないけどさ。』
『そうだよね。
気持ち分かったなら、そうしなきゃいけないんだよね。
私ね、親友って呼べる女友達、アンタしかいないんだ。
いつも深入りしないように付き合ってきたから。
なんでか男友達しかいなくてさ。
で、いつか私の地元にアンタを連れて行きたいなって思ってて。』
『そんなことなら大歓迎だよ。
仕事辞めるのは、個人的にはすっごい嫌だけど。
ライバルを超えた!って気持ちになってないし。』
『二人でひとつ、みたいなトコあったしね。
だから余計ライバル視もしてたよね』
彼女が仕事を辞める。
それは私にとって、
とても大きな出来事になる。
今まで一緒に仕事ができるのが当たり前だと思っていた。
真剣に恋ができるって、とても素晴らしいコトだと思う。
私はそれを探せなかった。
彼女には負けたなって思った。
それからしばらく経って、
彼女は私に
日程の都合を聞いてきた。
その日、地元に遊びに行くので、
私と一緒に地元に行き、
好きな彼や友達を直接紹介したいってことだった。
彼女の好きな彼とは、何度か電話で話もした。
彼の友達とも電話で話した。
彼の友達とはメールアドレスも交換して、
メールでの交流を深めていた。
だから、遊びに行くことには抵抗が無かった。
私は
『もちろん行くよ』
と答えた。
彼女の幸せそうな声が嬉しかった。
ところが、それからすぐ、
彼女の地元に遊びに行く予定日に、
私に仕事が入った。
撮影の日にちは変えられない。
行きたかったが、また次の機会にしようということになり、
当日、彼女は一人地元に向った。
一方私は楽しい撮影の日。
何が起こってるのかも知らずに、
撮影を終え、打ち上げに参加した。
酔っ払って自宅に帰され、
昼頃までだろうか、一度も起きずに爆睡していた。
ふと目が覚めた。
携帯を見た。
彼女の男友達からメールが来ていた。
私はその文章を読んで、思わずその彼に電話をした。
彼は私にこう言った。
『あいつら死んだかもしれない。』
パニックで、それからのことはあまり詳しくは覚えていない。
とにかくショックだった。
何が起こっているのかも、理解できなかった。
でも、それは現実だった。
受け止められなかった。
私がもし、仕事に行かず、
彼女と一緒に地元に遊びに行ってたら、
四六時中みんなで行動していただろう。
なぜこんなコトになったのか、
私が行ってたら、
彼女達は死なずにすんだのか、
私は止めることができたのか、
あるいは私も一緒に死んだのか
ネットでは
彼女の死を面白がるかのように討論され、
私が彼女を殺したんじゃないかと書き込みをされ、
マスコミは、あることないことを記事にし、
業界人も、それを当たり前のようにネットに晒した。
許せなかった。
私は彼女が亡くなった後、彼女と同棲していた彼氏の家に招待された。
たくさんの業界人や彼女の関係者の中の一人として。
一緒に仕事をしてきた仲間も一人来た。
でも、そこにいない子もいた。
いて欲しい子だった。
だから連絡を取った。
そしたらその子は
彼女が亡くなったばかりだと言うのに、
クラブで友達と騒いで遊んでいた。
集ったこの日は、もともとこの子も仕事が入っていた日だ。
私も、来てくれた仲間も、同じ仕事が入っていた日だ。
彼女が亡くなったことで、その仕事は取りやめになったのだ。
それなのに、クラブで遊んでいた。
仲間がその子に電話したら、笑いながら出たと言う。
その神経が私には分からなかった。
電話を代わってもらい、
私はその子に来て欲しいと頼んだ。
でも、その子はこう言った。
『行きたいんだけど、今日は忙しいんだ。ごめんね。』
その言葉に、来ていた業界人や彼女の関係者はあきれた。
私はそれからその子とは口を利かなくなった。
言いたいことなら今でもたくさんある。
でももう、私の記憶から消し去りたい。
私は少しだけ仕事を休んだ。
でも、その数日後、サイン会が入っていた。
このサイン会だけは、告知しているだけにキャンセルができなかった。
精一杯頑張った。
その時出せる、精一杯の私を
無理して出した。
その頃からだ。
仕事を辞めようって思い始めたのは。
こんなに辛いときでも、
笑っていなきゃいけないのか?
残酷で冷酷な世界。
仕事仲間でもあった、かけがえの無い親友が亡くなった。
だから彼女の分まで仕事を頑張ろう。
普通ならそう思うだろう。
でも、彼女はAVを辞めたいと言っていたのだ。
私は、彼女の本心を聞かされていただけに、
あなたがいなくなっても頑張るよ
とは思えなかった。
もちろん入っていた仕事は頑張ってこなしたし、
『辞めるとか言わないよな?』
という周囲の言葉に
『まだまだ頑張るよ!目標があるから』
とは言っていた。
でも
私ももう限界だった。
仕事に夢中になれなかった。
彼女の死を、面白おかしく話す業界人や一般人。
アクセスアップのために、HPでその話題を取り上げる業界人。
表面は悲しんでいるふりをして、遊びを優先した仲間。
腫れ物に触るかのように私を扱う現場。
もうそんな場所には居たくなかった。
一括りにされるのが嫌だった。
他にも、
自分の将来を本気で考えたり、
家族のことを思ったり、
もうやりきった感があった、
もう飽きられてる、とか
書ききれないほどいろんな理由があったけど、
私はこうして業界から足を洗った。
引退するとき、
静かにいなくなりたかった。
引退から半年、一年位経って
いろんな女優さんが次々と出てきて、私への熱が冷めた頃に
『あれ?そういえばあのコドコ行ったの?』
と噂され、
『辞めてました』
これが理想だった。
しかし、それすらも裏切られた。
引退前に撮影したインタビューが、
引退翌日に『引退』と言う文字と共に
ネットに流された。
人の気持ちなんて、何一つ考えてくれていない。
人間なんて所詮、自分さえよければいい。
金に繋がればそれでいい。
私は引退の一方で、
長い間付き合ってきた、彼との関係も切った。
親友が亡くなった後、彼氏とは2度かな?会ったんだ。
会う機会はもう本当に減っていたんだけど。
彼女が亡くなる少し前に、私と彼は久々に体を重ねた。
その時ね、
『なんかAV女優としているみたいで嫌だ』
って言われた。
一方で私は
あれだけSEXの相性が良かった彼が、
とんでもなく合わなくなっているコトに気づいた。
丁寧にしてくれていた愛撫も、
他の女とすることで、形が変わっていって
私が好きだった彼の愛撫ではなくなっていた。
一言で言うなら、ヘタクソになっていた。
私がAV女優になったからじゃない。
彼の抱き方が変わったんだ。
何人と体を重ねても、これは変えないでいてくれるって思ってた。
会わないと、愛し方までこんなに変わってしまうなんて知らなかった。
もうそこに愛はないんだって気づいた。
体が合わないのに、
心がどっかに行ってしまってるのに、
彼に固執する必要はもうなくなった。
最初はなかなか同意してくれなかった。
でも、急に
『分かった』
と言われた。
それから月日が流れてね、
私と彼がキューピッド役をしたカップルの女の子の方が
私に言ってきた。
私に別れを切り出されたすぐ後、
一方で付き合ってる彼女に子供ができたらしく。
彼は結婚したそうです。
なんとなく噂聞こえてたから、気づいてはいたけどね。
結局私も彼も、お互いが運命の相手ではなかった。
別れたりくっついたりを繰り返し、5年半も彼との関係を断ち切れなかった。
今の奥さん子供には、絶対に幸せになって欲しい。
もう裏切りなんて許さない。
私なんかに思われても、余計なお世話だとは思うけど。
私はこの一連の出来事をこの場所に書くべきか、書かないべきか、
すごく迷った。
でも、本当はこれが一番書きたかったこと。
一番伝えたかったコト。
今、ココでなら言える。
明日になったらこの記事は、
また私の記事で、
ひとつ下に流される。
明後日になって、明々後日になって・・・
どんどん下に流されていく。
だから言える。
私が誰か分かった人もいると思う。
分からない人はそのままでいい。
何の問題も無いから。
私だってね、傷ついたんだよ。
いっぱい泣いたんだよ。
立ち直れないかと思うほど
狂っちゃったんだよ。
彼女の傍にいたんだよ。
彼女の思いも何にも知らずに、
外野で騒がれることに腹が立った。
腹が立ったってモンじゃない。
言葉では言い表せないくらいの気持ち、分かるか?
あの時の心無い関係者達やマスコミと、
嘲笑った、心を持たない一般人。
私はその人達の前で笑うことは、二度とありません。
彼女が死んだからじゃない。
あなた達がいたから、私はAV業界から去ったんです。
もうケンカもできないし、バカ話も
彼氏の話も聞いてあげられないけど、
彼女は、今も私の傍にいてくれてる。
心の中にいてくれてる。
姿は見えなくたって、私の大切な親友だ。
これからもずっと。
親友辞めたいなんて言われても、絶対やめないから。
いつも見に来てくださってる方へ。
嫌なコト書いてしまってゴメンナサイ。