そう思っていた。
自分が飛び込んでいったその世界は、
出会う人出会う人、みんな個性があって、
どこか寂しさもあって、
でも一生懸命で・・・。
きっとここが私の本当の居場所なのかな、と思った。
レイプ裁判のことは気にはなっていたけど、
もうどうでも良かった。
当時水商売をやっていた私の話なんて、
お堅い裁判官が信じるはずもない。
AV始めたら余計だろ・・・。
仕事は、私の苦しみを全て忘れさせてくれた。
ひとつの作品を、みんなで作る。
ものを作ることが好きな私には、向いていたのかもしれない。
AVでの行為は気持ちいいものは少なかった。
でも、没頭できた。
利用されるだけの私だったけど、
私も、過去を忘れるために、強くなるために、
業界を利用した。
AVを始めたこと、家族にも、好きな彼にも言わなかった。
私と彼の関係は続いた。
でも、ヨリを戻した訳ではなかった。
その関係でも、彼は私を好きだと言ってくれ、私も彼を好きでいた。
だから、実質上は、彼氏彼女の関係にあった。
頻繁に、彼の働く店に飲みに連れて行ってくれて、飲み代は全て彼が持ってくれた。
サクラみたいなこともした。
他の客とは違う。
嬉しかった。
そして、この距離感が不思議に落ち着いた。
レイプ、妊娠、中絶、彼への束縛心、私の全てが彼を苦しめた。
男なんて誰も信用しない。
女だって信用できたもんじゃない。
レイプされたときに働いていた店の店長に、
相談に乗るからと言われ、
私はレイプされ妊娠したことを打ち明けた。
酔っ払った店長は、ある日お店の女の子を連れて、
姉妹店へ飲みに行った。
その場所で、店長は
・・・・私がレイプされて妊娠したコトを皆に話した。
お店の子達は、
私のレイプ話を面白がって客に話した。
私は客の席についても、涙が出るだけだった。
つわりと涙と精神的ダメージで働けない。
でも、働かなきゃお金がない。
仲良く働いてたはずの女の子が、
みんな私を酒の席のネタにしている。
彼は、何度も浮気して、私を裏切った。
3度目の妊娠の時、
『堕ろして欲しいでしょ?』
と言った私に
『もう傷つけたくないから産んで欲しい』
と言った。
いつ彼の気持ちが変わるか分からない、
お腹が大きくなってから
『堕ろせ』
って言うんじゃないか・・・
彼を信じていなかった。
お腹が大きくなった時・・・・堕ろせって言われた。
ショックだったけど、そう言われるんじゃないかって、
ずっと思ってた。
だから、
この距離が楽。
面倒なことを考えないでいられる、一番の距離。
これが、私が彼を好きでいられる一番の距離。
二人が幸せを感じられる、一番の距離。
人は簡単に、人を傷つける。
人は簡単に、人を裏切る。
私は、
人に期待しない。
人を信じることは、絶対にしない。
信じれば信じるほど、裏切られた時の傷は深い。
あー、やっぱりこんなもんか。
そう思っていたほうが楽。
そんな人間になっていた。
ある時私は、ひょんなことから
きょうだいMと一緒に住むことになった。
同居しながら、自分の仕事を隠すのは大変だった。
でもMは、私の仕事のことをずっと知っていた。
知ってて同居を始めた。
ある日、ささいなことでMと言い合いになった。
ゴミを夜中に出すか、早朝に出すか、それだけのことだ。
しかしMは、私を殴った。
同じ箇所を、10回殴った。
10発10中。はずしもしない。
倒れこみもせず、顔を伏せもせず、
殴られた箇所を手で押さえもしなかった私も私だが、
同じ箇所をはずさずに殴れるMも、何か才能ある、とも感じたくらいだった。
私の顔には、大きく真っ黒なアザができた。
Mとは口を利かなかった。
何があったか知らないけど、
私に当たるのは止めてくれ・・・と思ってた。
顔にこんな大きく濃いアザ・・・
仕事できないと思った。
それでも仕事は休めない。
私が休むことで、莫大な損害が発生する。
本番のずっと前から、全てのセッティングをする。
監督・スタッフ・メイクさん・共演者・スタジオ・台本・・・
その全てに時間とお金がかかっている。
そして、監督・スタッフ・メイクさん・男優さん・スタジオ・・・
この中に女優がいないと、撮影は始められない。
女優に代わりは立てられない。
メイクで隠し、アザが消えるまでの約1ヶ月を乗り切った。
ケンカの数日後、Mに手紙を貰った。
『この間は殴ってごめん。
でも、本当はゴミのことなんてどうでも良かったんだよ。
AV、もう辞めて』
そう書かれてた。
・・・ああ、Mは分かってたんだ。
私が、たくさんの裏切りや、レイプや、中絶で傷ついて、
自分を落とさなくてもいいところまで落としたこと・・・
Mは誰より分かってくれていたんだ。
でももう・・・・
私はAV以外の世界に、
自分の居場所は無いと感じてた。
どんな形でも、
私を必要としてくれている人達が、
この世界にはいた。
私を認めてくれる人達が、
この世界にはいた。
小さくていい、
汚くたっていい。
最低と思われても、
この場所で、
全てを忘れて輝きたい。
だから、
ごめん、
辞めない。
それが私の結論。