でも、彼氏は当時、他にも好きな子がいた。
だから別れた。
別れても好きだった。
彼はもう一人と付き合いながらも、私との関係を断ち切れずにいた。
そんな中で、私の妊娠が発覚した。
産みたかった。
好きな人の子供。
彼の親に、猛反対された。
私が嫁としてどう・・・とかではなく、
自分の息子なんか、絶対に好きになってはいけないと言われた。
彼の両親とは、付き合い始めた当初からぶつかっていた。
彼の両親が、自分の息子を息子扱いしていないのだ。
そして、怒鳴り散らす両親に対して、彼も無言のままうつむいている。
私にはその光景が信じられなかった。
初めて彼のご両親と面と向って話したその日、私はブチ切れていた。
『こいつは最低の息子だ』
『こんなヤツとは付き合わない方がいい』
私は堪らず言っていた。
『自分の育てた息子だろ?お前らがそんな風にしか子供見てないから、
自信なくすんだろ???』
『君に息子の何が分かる?』
彼の父親はそう言った。
『じゃあ、お前は20年近く彼を育てて、彼の何を分かってるんだよ?』
『20年近くも一緒にいるのに、分かろうともしてないだろ?』
『そんなヤツに心開こうって、いい息子でいようって思うか?』
彼は一度も口を開くことは無かった。
そして、初対面のご両親に向ってこんな暴言を吐いた私は、
その場にいるのがとても情けなくなり、
彼の家を飛び出した。
そのご両親から、
『子供を産むのは諦めなさい』
と言われた。
今思えば、彼のご両親は、本当に私のことを思って言ってくれていたのだと思う。
彼に子供ができたことを告げると、彼は
笑いながら
『堕ろして』
と言った。
彼には夢があることを知っていた。
私は中絶した。
毎日酒をあおっていたせいか、手術は麻酔が効かず、
痛みはダイレクトに私を引き裂く。
中絶終了後にベッドに移された時、麻酔が効いて、眠りに落ちた。
中絶した後、彼はとても優しかった。
でも、彼のけじめが付くまで、
私は彼を遠くから見守ることにした。